「ブチッ!!」
(隣の人がでかい魚を掛けたら仕掛けを回収するのがマナーじゃなかったのか!?)
これは私が初めて船釣りを経験したときの話です。
私は今まで主に、磯でメジナ釣りばかりしていました。
しかし最近では、マダイを専用のルアーで釣る「鯛ラバ」というゲームが流行っていると耳にし、船釣りに興味を持ちはじめました。
船釣り経験のない私は、インターネットや雑誌で調べて道具を揃え、『初心者歓迎』と紹介されていた遊漁船を予約しました。
経験者の父親と一緒に行く予定だったのですが、急きょ都合が悪くなり、一人で船釣りをデビューすることになってしまったのです。
今思えばこれが悪夢の始まりでした・・・。
船釣りの乗合でトラブルに
酔い止めも飲んだし、船長さんにも初めての船釣りって伝えてあるし、あとは初心者でも釣りやすい場所を譲ってもらうだけだ。
船釣り初心者といっても、磯釣りの経験はそこそこありますので、とくに不安を感じることもなく待ち合わせ場所に向かっていました。
出港の30分前には港に到着し、仕掛けを準備していると、続々と他の釣り客の方々が到着されました。
準備を進めながら耳に入ってくる話を聞いていると、どうやら私以外は顔馴染みの常連さんのようです。
いつの間にか船長も到着されており、皆さん各々の釣り道具を船に積み込んでいましたので、私も釣り道具を持って船に乗り込み、船長に挨拶を済ませました。
船長、私先日お話ししたとおり船釣り初心者なんですが、皆さんに迷惑を掛けない場所で釣りをさせてもらってもよろしいでしょうか?
初心者なら一番潮下がいいんだけど・・もう場所取られてるよ?あとはお客さん同士で話してよ。
ふと見ると、すでにあちこちにクーラーボックスが置いてあります。
下調べ不足でした。
乗合では場所によって「クジ引き」だったり「早い者勝ち」だったりで釣り座が決まるのです。
当然釣りやすい潮下は人気の釣り座です。ダメもとで交渉しましたが、やはり交渉に失敗しました。
仕方がないので、空いていた真ん中付近に釣り座をかまえます。
ポイントに到着し、船長の合図で全員同時に仕掛けを落としていきます。
私は鯛ラバが着底するまで待ちます。
「・・・。」
「・・・。」
そうなんです。私は着底したら『ラインが止まる』と思い込んでいたのです。
実際には、陸と違って船も流れているので、着底後の一瞬だけフッとラインが止まり、また船の流れでラインが出続けるのです。
そんなことも知らない初心者の私は、着底していることに気付かず、永遠にラインを出し続けてしまったのです。
皆さんの想像通り、一投目から『オマツリ』をしてしまいました。
(やられた方はかなり面倒くさい)
気をとりなおして、もう一度仕掛けを作り直しました。
今度は仕掛けを重くしたので、着底がハッキリと分かりました。
しばらくその仕掛けで釣りをして、ようやく慣れてきたかな?という頃に、船長さんから合図がありました。
急いで仕掛けを回収し、次の場所に備えます。
次のポイントに到着し、船長から開始の合図で全員仕掛けを落とします。
着底確認後、リールを巻いていると竿に違和感が。
私は思いっきり合わせを入れましたが、無反応です。
(でも何か引っ張られている感覚が…。)
今度は、先程とは逆の方とのオマツリでした。
1人だけ極端に違う重さですると流れ方が違うからオマツリするよ。気をつけてね。
(だから端っこで釣りさせて欲しかったのに…)
両隣に迷惑をかけ、かなりブルーになった私は、すでに帰りたい気持ちでいっぱいでした。
気がつけばマダイが釣れていないのは、私だけになってしまいました。
気をとりなおして仕掛けをセットし、釣りを再開します。
次は周りの方と重さを合わせましたが、慣れてきたせいか、着底の感覚が分かるようになっていました。
両隣に迷惑がかからないように気を配りながら、黙々と釣りに集中していると、
「ゴゴン!」
と引ったくられるようなアタリが!
必死にリールをゴリ巻きして上がってきたのは、30センチくらいのハタでした。
何度かポイントの移動を繰り返して、私も両隣に迷惑かけることはなくなっていました。
しばらくすると、突然隣の方の竿先が海中に突っ込み、壮絶なやりとりが始まりました。
私はすぐに仕掛けを回収して、やりとりを見守っていました。
長い格闘の末、無事タモに収まったのは、もうちょっとで1メートルいくんじゃないかというほどの丸々とした立派なブリでした!
(次は自分に来るといいな。頑張ろう!)
チャンスはいきなりやって来ました。
一定のスピードで巻いていると、
「ドンッ!!」
といきなりもの凄い重量感とともに、ドラグが「ギギィーーーーーー」と出ていきます。
先ほどのハタとは全く違う強い引きで、私は青物だと確信しました。
せっかくの大物を逃したくはないので、慎重にやりとりをしていました。
ふと隣を見ると、逆隣の釣り客の方は回収して見守ってくださっていますが、もう一人の方は仕掛けを回収せずに、ビールを飲みながらこちらを見ています。
(ドラグを閉める)
「ブチッ!!」
(隣の人がでかい魚を掛けたら仕掛けを回収するのがマナーじゃなかったのか!?)
確実にさっき自分が釣ったブリと同じくらいのサイズなのに・・・と、あまりの隣の釣り客の意地悪さに私の心は完全に折れてしまいました。
結局その日は、ハタ1匹だけの釣果となってしまいました。
もう絶対に船釣りなんかするもんか!
そう強く心の中で誓い、家に帰りました。
友人に誘われて船釣りの貸切デビュー
私は初めての船釣りで悲惨な目にあったことを友人に伝え、誘いを断るつもりでした。
話を聞いた友人は、爆笑しながら、
乗合は他のお客さん次第で当たりはずれがあるけど、今度行くのは貸切だから安心していいよ。
私は船釣りに対して最悪のイメージを持っていましたので、正直行きたくありませんでしたが、友人がどうしてもというので、渋々ついていくことにしました。
PEは○○号でリーダーは○○号くらいで、水深100mくらいまで行くから鯛ラバとジグは○○gまであった方がいいかな。
友人は船長さんと仲が良いらしく、私が情報収集するまでもなく、かなり細かいところまで事前に教えてくれました。
ついに船釣りリベンジの日がやって来ました。
前回とは逆に、不安に押しつぶされそうになりながら港へ到着しました。ちょうど友人も会社の人たちも着いたとこのようです。
今日は大丈夫だからね!
どうやら前回の話は会社の人たちにも伝わっているようです。
何よりも、前回のようなアウェイ感が感じられませんでした。
船長さん次第でこんなにも対応が違うのかと思いました。それとも拓海の友人だから優しいのか?とも思いました。
(神だ!)
これぞ初心者大歓迎!っといった感じで港を出航し、ポイントに到着しました。
ポイントに到着するまでの間に、船長からアドバイスを頂きました。
(前回はこんなアドバイス全然もらえなかったな)
船長からの合図で全員同時に仕掛けを落としていきます。
などと考えながらリールを巻いていると、
「コ、コン、ココン」
と小さなアタリが・・。
無理に合わせる必要は無いから、巻き続けてたら勝手にマダイからノってくれるよ。
(一投目からマダイのアタリがあるなんて、今日は何か釣れる予感がする)
「コ、コン、ココン」
「コ、コン、ココン」「ココココン」「ドンッ!」
友人に言われた通りに巻き続けていると、完全にノりました。
ふと周りを見渡すと、全員が仕掛けを回収してくれていて、船長がタモを構えて待機してくれています。
おかげさまで、周りに気を使うことなくやり取りに集中することが出来て、無事に船長に掬って頂くことができました。
まさかの60㎝オーバーのマダイでした。十分嬉しかったのですが、この後さらに嬉しいことが起こったのです。
なんと、初心者の私を頼って質問してくれたのです。
友人も会社の人たちも、船長さえも私が使っている鯛ラバに合わせて、仕掛けを変更しています。
私はこの時に初めて、船全体が一体になるという感覚を味わいました。その基準に私がなれたのです。
60㎝のマダイより、こっちのほうが嬉しかったのを覚えています。
あっという間に全員安打を達成し、
と、船長からのありがたいお言葉まで頂きました。
突然友人がナブラ(魚がエサとなる小魚を追いかけてバシャバシャしている状態)を発見しました。
キャスティングとは、遠くのポイントにルアーを投げて釣る釣り方のことです。
全員が事前に用意していた、もう1本のキャスティングロッドに持ち替えて、ジグを投げ始めます。
などと考えながら、ひたすらジグを投げていました。
友人の会社の人に青物がかかりました。
かなりデカいらしく、船中を走り回っていますが、当然全員が仕掛けを回収済みですので、何の問題もありません。
私がタモ入れを担当して、無事に大きなブリを釣り上げることに成功しました。
すると今度は、会社の人のルアーにみんなが合わせ、瞬く間にブリも全員安打を達成しました。
その後もポイントを移動するごとに釣れ続け、昼過ぎにはそれぞれマダイもブリも数匹づつ釣れている状態でした。
お土産というのは、ハタなどの根魚のことを言うそうです。(私の地域だけかもしれませんが・・)
浅場のポイントに到着し、船長からアドバイスを受けて釣りを開始します。
私は重い仕掛けしか持っていなかったので、みんなより重い仕掛けで釣りを開始します。
釣り座が端だったので、誰にも迷惑をかけずに済みましたが、浅場で重い仕掛けは、思った以上にやりづらいものがありました。
そんな私の状況に船長がいち早く気付き、ありがたいお言葉をかけてくれたのです。
と言って丁度いい重さのジグヘッドと、ワームを貸してくれました。
そのおかげでここでも快適な釣りができ、ハタやカサゴ、ラッキーなことにカワハギまで釣れました。
もう満足!というくらい釣れたころに、船長から思いもよらない一言が。
さすがにみんな驚いた顔をしていましたが、船長が言うならと快諾してイカ釣りに変更することになりました。
全員が船長のロッドとエギを借り、私にとっては初めてのティップランが始まりました。
ティップランも船長や友人がコツを教えてくれて、最初に釣れた人の色に合わせて、みんな釣ることが出来ました。
気がつけばみんなのクーラーボックスは満タンで、魚種もマダイ、ブリ、カワハギ、キジハタ、カサゴ、イカと五目釣りどころじゃないくらい、たくさん釣れていました。
大満足の私は、最高の気分でみんなにお礼を言い、港を後にしました。
貸切の予定が乗合に
すっかり船釣りにハマった私は、それから数回友人に誘ってもらい、貸切の時のみ参加するようになっていました。
そんなある日のこと、いつものように友人と、その会社の人たちと貸切で行く予定だったのですが、急に外せない仕事が入ったらしく、人数が足りなくなってしまいました。
私と友人の2人だけだと、さすがに貸切は割高になってしまうため、仕方なく乗合船に乗せて頂くことになってしまいました。
私は大きな不安を抱えつつ、
と他の釣り客の方と船長に挨拶を済ませ、船に乗り込みました。
案の定一番釣りやすい場所は先に取られ、私の隣は片方は友人、もう片方は知らないおじいちゃんになりました。
(迷惑をかけないように、気をつけなきゃ!)
ポイントに到着し、釣りを開始しますが、今回は誰も釣れません。
誰も釣れないまま何回か移動したあとで、隣のおじいちゃんにヒットしました。
私はすぐに仕掛けを回収し、見守っていると、40㎝くらいのきれいなマダイが上がってきました。
私はおじいちゃんの仕掛けを、盗み見しながら仕掛けを変更して釣りを再開しますが、釣れません。
その後もおじいちゃんだけが、カサゴ、マダイ、ハタ、マダイ、と立て続けに釣っていました。
どんな鯛ラバ使ってて、どんな感じで釣ってるのか真似してみようよ!
同じような鯛ラバ付けて、同じスピードで巻いても釣れないんだよね~。
その後もおじいちゃんだけが釣れ続け、何度目かのポイント移動をした時に事件は起こりました。
船長の合図で、全員同時に仕掛けを落としていました。
これまでに全く釣れていないことと、ぽかぽか陽気の釣り日和が重なって、あろうことか仕掛けを落としている最中に、居眠りをしてしまっていたのです。
どれだけ寝ていたかは分かりませんが、「ハッ!」と気付いた時には手遅れでした。
明らかに私の道糸だけが、周りと違う角度でした。もう完全に着底してしまっています。
慌てて全力で仕掛けを回収しますが、案の定おじいちゃんとオマツリしてしまっていました。
(うわー、やってしまった!場の空気が悪くなってしまう。)
私は頭の中が真っ白になってしまい、初めて船釣りに行ったときのトラウマが蘇ってきていました。
ところが・・・。
構いませんよ。ちょうど仕掛けを変えようと思っていたところですから、私のほうを切りますね。
本当に仕掛けを変えようとしていたのか、私に対する優しさなのか、真意は分かりませんが、このおじいちゃんの優しい言葉に私は救われました。
そしてオマツリをきっかけに空気が悪くなるどころか、おじいちゃんと仲良くなっていきました。
最初はたわいもない会話でしたが、徐々に釣りの話になり、
私たちとは技術が違いますね!
ただ、今日の魚達は底から離れたくないようですね。
底から1~2mをじっくりと探っていれば、きっと釣れますよ。
おじいちゃん以外の全員が釣れない理由がハッキリと分かりました。
私は今までの基本通りに、着底してから一定のスピードで底から中層付近までを探っていました。
つまり、ほとんどが魚のいない層を探っていたということになります。いくら鯛ラバを真似したところで釣れないはずです。
おそらく他の釣り客の皆さんも同じだったと思います。
それからは徹底した底狙いに変え、しばらくやっていると私にも念願のマダイが釣れました。
結局その日にマダイを釣ることが出来たのはおじいちゃんと、私と、友人の4人だけでした。
おじいちゃんは他にも、私たちが知らない知識をたくさん教えてくださいました。
何よりも印象的だったのは、オマツリ以降ずっとおじいちゃんが笑顔だったことです。
港に帰りつき、
と挨拶をすると、
素敵な時間をありがとうございました。
と言ってもらえて、とても幸せな気持ちになりました。
自分もおじいちゃんのように、トラブルに巻き込まれても笑顔で対応出来るような「釣り名人」になりたいな。)
車の中でこんなことを考えながら、大満足で帰宅しました。
まとめ
釣船乗合編
- オマツリなどのトラブルが多い
- 周りに気を遣う
- 釣り客の当たりはずれが激しい
- マナーの悪い人が隣に来ると最悪
- 思う存分やり取りが出来ない
- アウェイ感がハンパない
- 仲間内だと知ることがない情報交換が出来る
釣船貸切編
- 気を遣わなくて良い
- 分からなくても相談しやすい
- 全員で協力出来る
- とにかく楽しい
- 一体感がハンパない
- 船長が試し釣りに連れて行ってくれる
- 乗合と比べて割高になる
船で釣りに行くとなった場合、「乗合」を選ぶか「貸切」を選ぶか悩みどころだと思います。
確かに乗合のほうが安く済みますが、紹介したようなトラブルが多いのも事実です。
いくら安いと言っても、嫌な気持ちになるくらいなら、少々高いお金を払って楽しく終わりたいと私は考えます。
初心者であればあるほど、「貸切」をおすすめします。
しかし貸切では知識、技術ともに、小さい範囲でしか成長出来ないとも思います。
乗合で様々な人と触れ合うことによって、今まで考えもしなかった釣り方に出会ったり、いろんな釣りを見ることで、確実に自分の引き出しが増えます。
また、すごい釣り名人と出会うきっかけになるかもしれません。
「貸切」で楽しく釣りをするか、「乗合」でレベルアップを目指すか。
あなたはどちらを選びますか?